【ビジネスリスク分析】深刻化するクマ被害、青森りんご農家の実態から見えてきた産直販売への波及とは

昨今、全国的にクマの出没とそれに伴う被害が報じられていますが、この問題は単なる環境・地域問題に留まらず、いまや1次産業の生産現場、さらには国内の物流にまで深刻な影響を及ぼす「ビジネスリスク」として顕在化しています。

ここでは、オイシックス・ラ・大地株式会社「らでっしゅぼーや」が【産地応援企画】として公表した、青森県の契約生産者「津軽産直組合」の事例を中心に、その深刻な実態を分析します。(東奥日報11/10記事より)

①. 生産現場の機能不全:「まともに、りんごを作れない」という現実

被害は、単に「りんごが食べられる」身体に「危害が及ぶ」といった直接的なものに留まりません。より深刻なのは、生産活動そのものを麻痺させる「間接的被害」です。

「津軽産直組合」が直面する課題:

  • 労働安全性の著しい低下: 一度りんごの味を覚えたクマは、木に爪痕を残し「エサ場」としてマーキングします。クマが出没しやすい夕方になると、スタッフが恐怖を感じて帰宅せざるを得ず、作業時間が物理的に制限されます。
  • 深刻なリクルーティング難(人手不足): 「クマが出没する」という労働環境は、新規スタッフの雇用を著しく困難にしています。結果、既存スタッフの負担が増大し、人手不足が常態化しています。
  • 生産スケジュールの遅延: 降雪前に終えなければならない収穫作業が、上記2つの要因(労働時間制限・人手不足)により大幅に遅延。収穫ロスや品質低下に直結する事態となっています。

同組合では「(前略)夕方は怖くて作業員も一斉に帰宅する状態です。鳥獣被害もひどく、まともにりんごを作れない状態に苦戦しています」と、現場の窮状を訴えています。

これは、生産者個人の努力ではもはや対応しきれないレベルの「事業継続リスク」に他なりません。


②. 物流網(サプライチェーン)への波及

この問題は、生産現場だけに留まりません。日本の大動脈である宅配業界=物流網にも具体的な影響が出始めています。

  • ヤマト運輸: 北海道や東北地方の配達員に対し、撃退用スプレーの配備を開始。安全確保のため、出没情報に基づき集配を見合わせる地域も発生しています。
  • 日本郵便: 11月5日、クマ出没地域での集配業務を一時的に見合わせる可能性を発表。原則として午後5時以降の二輪車による配達を見合わせる方針を示しており、郵便物やゆうパックの配達遅延が公にアナウンスされています。

●まとめ:鳥獣被害は「調達リスク」であり「経営課題」である

青森の事例は、鳥獣被害が「農家の問題」から、サプライチェーン全体に関わる「調達リスク」へとフェーズが変わったことを明確に示しています。

生産現場の疲弊、労働力の確保難、そして物流の遅延・停止。これらはすべて、小売業や食品産業における安定調達を脅かす要因です。

自社のサプライチェーンにおいて、生産地が同様のリスクに晒されていないか。リスクが顕在化した場合の代替調達プランは存在するか。鳥獣被害は今や、事業継続計画(BCP)やESG経営の観点からも無視できない経営課題となっています。今後の動向を注視する必要があるでしょう。

今後、生産者が早朝や夕方の収穫や納品を控え始める。遠方からの納品やギフト集配が滞る。店舗にクマが寄り付かない様に万全な注意(残渣やごみ箱、店頭陳列廃止、入口ドアの見直し)やスタッフ間での危機対策を共有する必要があると思われます。「安全性」「人手不足」「作業遅延」「物流の麻痺」。事故が発生すると本当に店舗も生産者も死活問題になってしまいます。万全の注意と対策をスタッフ、生産者と共有する必要があります。

産直販売プロデューサー 沼澤裕

産直販売プロデューサー 沼澤裕

株式会社コストSP総研 代表

産直販売が好き過ぎて仕事を代えた宮城県の男性/産直コンサル実績15年延べ220件以上/始めたきっかけは、元々地場野菜やローカル商品が大好きで全国の道の駅、食品スーパーに立ち寄るのが趣味でした。その「見て聞いて食べてきた」体験談を小売業社長に話すうちに「うちでもやりたい」「手伝って欲しい」となり、産直売場の改善、新規開設等が主力業務となりました/産直は立地・規模に関わらず、大手に対抗出来る数少ない集客策と確信しています!

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