ビジネスにおいて、競合他社の戦略を肌で知ることは極めて重要です。特に、社会貢献(CSV)と顧客獲得(アクイジション)を融合させたキャンペーンは、現代のマーケティングにおいて注目すべき領域です。
今回、筆者は、「らでぃっしゅぼーや」が展開する「クマ被害支援りんご入りふぞろい食材おためしセット」を、純粋なクマ被害支援の意図をもって注文しました。
その結果、初回接点(おためしセット)において、顧客のロイヤリティを醸成し、定期購入(LTV向上)へとスマートに繋げるための、非常に計算された顧客体験(CX)設計を発見しました。本記事では、その分析結果を共有します。
1. 期待を超える「フロントエンド商品」の圧倒的価値
まず驚かされたのは、商品の「物量」と「品質」です。
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内容: 野菜、果物、玉子、加工品など全15種類。
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知覚価値: 購入金額(2480円)以上に相当すると感じられるボリューム感。
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物流: クール宅急便による徹底した品質管理。
これは、初回購入のハードルを下げると同時に、顧客の初期満足度(期待値)を大幅に上回ることを意図した、強力なフロントエンド戦略です。「お得だった」「良い買い物をした」というポジティブな第一印象は、その後のアプローチを受け入れる心理的基盤となります。
2. 真髄は「同梱物」にあり。計算されたCRM設計
しかし、今回の分析で最も注目すべきは「商品」そのものよりも、「同梱されていた印刷物一式」でした。これらは、顧客を「リピーター」へと育成するための巧妙な仕掛けとなっていました。
① 顧客の不安解消と活用促進
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「レシピ」や「保存方法」のチラシ
特に「ふぞろい」や「珍しい野菜」が含まれる場合、顧客が最初に直面するペインポイントは「どう調理・保存すればよいか」です。これに対し、具体的な活用法を先回りして提示することで、顧客は迷うことなく商品を体験(消費)できます。これは顧客満足度(CS)に直結し、「買ったはいいが使いこなせなかった」というネガティブ体験を防ぎます。
② ブランドへの共感醸成(情緒的価値の提供)
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「農家支援コンセプト」のチラシ
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商品ごとの「応援理由」
「クマ被害支援」という購入動機に対し、「我々はこういう理念で支援している」「あなたが買ったこの商品は、こういう理由で応援に繋がる」というストーリーを明確に提示しています。 これにより、顧客は自らの購買行動を「単なる消費」ではなく**「意義ある社会貢献への参加」**として再認識します。これは、価格以上の「情緒的価値」を生み出し、ブランドへの強い共感(ロイヤリティ)を醸成する仕掛けです。
③ 押し付け感のない「アップセル」への導線
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「年間定期宅配のご案内」
そして最後に、本命である「定期宅配の案内」が同梱されています。 これが「スマートだ」と感じた理由は、その提示の順番と情報量のバランスにあります。
顧客はすでに、
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お得な商品(物理的価値)
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有益な情報=レシピ(利便的価値)
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ブランドへの共感(情緒的価値) を十分に受け取っています。
この「与えられた」という満足感の中で提示される「定期案内」は、**「売り込み(Push)」ではなく、「価値ある体験を継続するための選択肢(Pull)」**として認識されます。有益な情報群の中に紛れ込ませることで、営業的な押し付け感を極限まで希釈することに成功しているのです。
結論:顧客体験の「全体設計」こそが強み
今回の競合分析で得た最大の学びは、彼らが「おためしセット」を単なる集客ツールとしてではなく、**「ブランドの理念に共感し、長く付き合ってくれる優良顧客」を選別・育成するための「高度なCRMプログラムの入口」**として設計している点です。
「お得な商品」で集客し、「有益な情報」で不安を解消し、「共感できるストーリー」で心を掴み、そして「スマート」に次のステップへ誘導する。
この一連の流れは、業種を問わず、自社の顧客体験やLTV向上施策を見直す上で、非常に価値のあるケーススタディとなりました。
キッチンから良い匂いがしてきました!ではクオリティも確認するとしましょう。いただきます!

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